アキテーヌの地方料理

広大なフランス南西部は、決して豊かな土地に恵まれていない。しかしこの一帯は、フランス料理の中で最も高価で、最も品質の高い食品を生み出している。フォアグラ、トリュフ、ボルドーワインなどである。

フォアグラとトリュフ
ペリゴールとランドの両地方はフランス有数のフォアグラの産地であり、ランドでは鴨のフォアグラも作られている。またトリュフは土中にできるキノコの一種で、日本ではセイヨウショウロという。表面は少しごつごつしていて、大きさは色々である。普通はピンポン玉くらいだが、卵より一回り大きめのものが最もおいしいといわれる。
○フォアグラのパイ包み焼きPâté de Foie Gras
フォアグラの代表的料理。トリュフが入ることが多い。
○ロッシーニ風トゥルヌドステーキTournedos Rossini
フォアグラとトリュフをのせたステーキ。
○ソーセージの生ガキ添えSaucisses aux Huîtres
ボルドー独特のカキの食べ方。砕いた氷の上に生ガキをのせ、十分に冷やし、隣に焼き立てのソーセージを盛る。冷たいカキと熱いソーセージを交互に食べる。バターを塗ったパンと辛口の白ワインを添える。
○ヤツメウナギのポロネギ添えLamproie aux Poireaux
ヤツメウナギは春に産卵のためにジロンド川を上ってくる体長50cm〜1mのウナギに似た魚。背に大理石の模様がある。生きたヤツメウナギを頭を上にしてひもでつるし、尾から4〜5cmのところを切り、したたり落ちてくる血を赤ワインを入れたボールで受ける。湯を沸かしてゆで、皮をむく。内臓を取り除いて筒切りにし、玉葱、人参、ニンニクの薄切り、ブーケ・ガルニ(香草の束)とともに、ボルドーの赤ワインとブランデーで10分ほど煮る。細目の若いポロネギの白い部分をぶつ切りにし、さいの目に切ったハムと一緒にバターで炒める。別の鍋にバターを溶かし、小麦粉を炒め、ヤツメウナギの煮汁でのばしてソースを作る。ポロネギとヤツメウナギを交互に並べ、ソースを注いでことこと煮込む。仕上げにとっておいた血を入れ、とろみをつけ、皿に盛り、クルトンを添える。ボルドー風Lamproie à la Bordelaiseともいう。
○コーデラン風エスカルゴの煮込みEscargots à la Caudéran
ボルドーの代表的なエスカルゴ料理。鍋にラードを溶かし、刻んだエシャロット、つぶしたニンニク、さいの目に切った生ハムを炒める。ここにパン粉をかけて軽く色づけてから、白ワインとブイヨン、ブーケガルニを入れる。塩、胡椒で調味して、下ごしらえして殻から取り出したエスカルゴを加えて1時間煮込み、熱いうちに食べる。
○キャビアCaviar
春になるとチョウザメがジロンド川をさかのぼる。その腹子を塩漬けにしたもの。
○ボルドー風セップのソテーCèpes à la Bordelaise
セップは大型のイグチ科のキノコで、ボルドー付近のものが特においしい。松茸くらいの大きさで、表面にぬめりがあるため口当たりがなめらかで、淡い香りとやわらかい食感で珍重される。フライパンにオリーヴ油を熱し、セップの笠を炒め、塩、胡椒する。セップの茎、パセリ、ニンニクを細かく刻んで加え、さっと炒める。パン粉やエシャロットを入れることもある。
○セップのサルラ風Cèpes à la Sarladaise、またはジャガイモのサルラ風Pommes de Terre Sarladaises
サルラはペリゴール地方南東部の町。ジャガイモ、セップ、ベーコン、ニンニクをガチョウの油で炒めたもの。

肉、野鳥の料理
○羊もも肉のひも結び焼きGigot à la Ficelle
ジロンド河岸の牧草は、海の風を受けて潮気を含んでいる。そのためこの牧草で育つポイヤックの羊の肉はプレ・サレと呼ばれ塩気のある肉である。羊もも肉は塩、胡椒してから油を塗り、足先の方をひもで結ぶ。ブドウの若枝を火にかざし、水で薄めたニンニク風味の酢をかけながら焼く。ニンニクをほどよく効かせることの得意なボルドー人の自慢の料理。
○ガスコナードGasconnade
ガスコーニュ地方の羊のもも肉のロースト。
○ボルドー風アントルコートステーキEntrecôte à la Brodelaise
牛の背ロース(アントルコート)は、塩、胡椒し、油を塗る。ブドウの若枝に火をつけてグリルし、熱くなれば肉をおく。エシャロット、パセリ、ゆでた牛の骨髄を細かく刻む。肉を裏返したら、これらのみじん切りをのせ、熱したナイフで押しつけ、骨髄をやわらかくする。好みの焼き加減で皿に盛り、クレソンを添える。
○アントルコートステーキ エシャロット風味Entrecôte à l'Échalote
エシャロットを輪切りにしてバターで炒め、赤ワインを注いで煮つめる。仕上げに生クリームを加え、好みの加減に焼いたステーキにかけ、パセリをふる。
○ランド風オルトランの蒸し焼きOrtolans Landais
ランド地方は野鳥のすみかや渡り鳥の通り道として名高い。オルトランは南ヨーロッパに多く生息する体長15cm前後の小さな渡り鳥。つかまえて1ヶ月、トウモロコシやアワで3〜4倍の体重になるまで育て、コップ1杯のアルマニャックの中に頭を突っ込んで即死させる。羽をむしり内臓を出さずに下ごしらえする。ふたつきの鍋に入れ、溶かしバターを少量注ぎ、塩、胡椒する。アルマニャックを加えてフランベし、ふたをして高温のオーヴンで火を通す。
○アモゲットAmauguette
南西フランス、ランド地方の羊の内臓料理。羊の胃、腸、足に香草を加えて土鍋で煮込む。
○ペテランPétéram
ランドの羊の内臓の煮込み。羊の胃や腸を適当な大きさに切り、野菜を加えて白ワインで10時間以上煮込む。
○アンショEnchaud
塩漬けした豚の背肉を加熱殺菌した、ペリゴール地方の料理。冷たいまま薄切りにしてサラダと供したり、炒めたじゃがいもとともに熱くして食べたりする。
○国王風野ウサギの詰め物赤ワイン煮Lièvre à la Royale
ロワイヤル(国王風)の名が示すとおり、高級レストランに登場する豪華なスペシャリテ。出生地はリムーザン説、ペリゴール説などがある。野ウサギの内臓を取り除き、血を完全に抜いてとっておく。この内臓をみじん切りにし、フォアグラ、トリュフ、玉葱、パン粉などでファルスを作り、骨をとって1枚開きにした野ウサギに詰める。全面に焼き色をつけてから、よく熟成した赤ワインで、十分にやわらかくなるまで蒸し煮する。煮汁を煮つめ、血を加えてとろみをつけ、トリュフを加えてソースにする。
○トウモロコシの団子Migue de Maïs
トウモロコシ粉をラードと水でこねて団子を作りゆでる。肉料理のつけ合わせとする。
○アルモートArmottes
ラードをとった後の豚の背脂やガチョウなどの脂肪繊維を加えた、ガスコーニュ地方のトウモロシ粉の団子。ゆでてから揚げるか、網焼きにする。パンの代わりに食べる。砂糖を加えてデザートにもする。
○リモートRimote
トウモロコシ粉で作るペリゴール地方の粥。ラス・プースLas Pousともいう。

ガチョウを使った料理
○ガチョウのコンフィConfit d'Oie
ガチョウは内臓を取り、4つに切り分ける。内臓の周りについている脂肪を削り取っておく。ガチョウに塩、胡椒、香辛料をこすりつけ、さらに塩をふり、重石をして1日おく。翌日、とっておいた脂を鍋に溶かし、その中でガチョウをゆっくり煮込む。かめに移して煮ていた脂をかけて冷ますと、白く固まった脂の中に身がくるまれている状態になる。これがコンフィ。焼いて食べる場合はかめから取りだして、脂がついたままフライパンでかりかりに焼く。焼かずに料理する場合は、脂をとり、水で洗ってから薄切りにしてレタスと合わせてサラダにしたり、切らずにスープやポテに入れて煮込んだりする。
○トゥーランTourin
オニオンスープのペリゴール風。ガチョウの脂で玉葱とニンニクの薄切りを炒め、さいの目に切ったトマトと水を加えて煮込む。そして卵黄を少量のスープでとき、火からおろした鍋に混ぜ込む。昔、南西フランスでは新婚初夜に「新婚のトゥーランTourin aux Nobis」という胡椒を多く入れた、刺激が強くて疲労回復に効くといわれていたスープを届ける伝統があった。
○アジャン風ガチョウの詰め物Oie à l'Agenaise
アジャンはプラムで名高い。干しプラムを水に浸して戻す。ゆでた豚の赤身肉を細かく刻み、炒めたみじん切りの玉葱、種を取ったグリーンオリーヴ、卵黄を混ぜ合わせる。これと戻して種を取ったプラムの中に詰める。このプラムをガチョウの腹に詰め、冷所に置いておく。これにガチョウ脂を塗り、ローストする。詰め物したプラムの他に、ゆでた栗をつけ合わせることも多い。
○アリコAlicot
ガチョウの手羽先、足先、砂肝、首をぶつ切りにしてガチョウ脂で炒め、薄切りにした玉葱、人参、サルシフィ(西洋ゴボウ)、トマト、スパイス、調味料を加え、ブイヨンを注いでゆっくり煮込んだもの。
○アビニャードAbignades
ガチョウの胃や腸の、ランド地方の煮込み。ガスコーニュ地方ではアリニャードAlignadeと呼ぶ。
○ガチョウの首の詰め物Cou d'Oie Farci
首の皮を香辛料の入ったブランデーに漬け込む。豚やガチョウの挽肉、肝臓、トリュフのみじん切りなどでファルスを作り、首に詰める。コンフィと同じようにガチョウの脂でゆっくり煮込む。食べ方は冷たいままでも、焼いてもよい。
写真は鴨の首の詰め物Cou de Canard farci。

バスクの料理
○トロTtoro(またはティオロTioro)
ブイヤベースのバスク版。魚を1度オリーヴ油で揚げてから、玉葱、ニンニク、赤ピーマンとともに煮込む。魚はコングル、鱈、ラスカス(カサゴ)、ラングスティーヌなど。サフランは使用しない。
○イカの詰め物墨煮Chipirones en su tinta
シュピオンと呼ばれる小イカは内臓を引き出し、墨袋を取り出す。玉葱のみじん切りをオリーヴ油で炒め、イカの足、頭部の刻んだものをニンニクとともに加え、塩、胡椒して、弱火で蒸し煮にする。さらにパン粉を入れ、水分をしみ込ませる。パセリのみじん切りを加え、味を調える。これをイカの胴体に詰めてつまようじで閉じ、オリーヴ油できつね色に炒める。別の鍋で薄切りにした玉葱、ニンニクを炒め、白ワイン、トマトペーストを加える。イカにこのソースをかけて煮込む。だし汁、イカ墨、塩、カイエンペッパー(辛みの強い唐辛子の一種)を加えてさらに煮込む。
○シュピオン・ビスカイアンSupions Biscaïen
ビスケー湾でとれる小イカを十分たたいておき、ニンニクとスペイン産の辛唐辛子とトマトを乳鉢で微細に突きつぶし、塩、胡椒したソースの中で長時間煮たもの。
○マルミタコMarmitako
ジャガイモ、トマト、ピーマン、ニンニクとマグロを煮込んだもの。
○ベスゴBesugo
鯛を玉葱、ニンニク、唐辛子とともにオーヴンで調理したクリスマス料理。
○ピペラドPiperade
バスク地方の伝統的な料理。ピーマンと玉葱の煮込み、またはこれを使った卵料理。フライパンにガチョウ脂を溶かし、千切りしたピーマン、赤ピーマン、さいの目に切ったトマトをやわらかくなるまで火を通し、卵を加え、スクランブルエッグのようにかき混ぜながら火を通す。半熟のうちに火からおろして皿に盛り、バイヨンヌの生ハムを焼いたものを添えて食べる。
私がバスクで習ったのは、ピーマン、トマト、玉葱、ニンニク、ピメント(この地方の唐辛子)を炒めてから、2時間くらい煮込む。調味料として生ハムの残りを入れるのが特徴。温めたピペラドに卵を混ぜたり、ソテーしたチキンに合わせたりする、というもの。

Auberge de la Galupe, Urt
○バスク風鶏の煮込みPoulet Basquaise
ピメントとニンニク、玉葱、ピーマン、ハム、鶏を炒めて、トマト、ハーブを加えて白ワインを注いで煮込んだもの。
○アシュアHachua
仔牛、または牛肉の赤ワイン煮込み。生ハムが入る。hacher「みじん切りにする」が語源。
○シキロZikiro
羊のグリル。
○エルゼカリアElzekaria
キャベツと白インゲン豆のスープ。
○ピルピルPilpil
胚芽つき小麦を煮た料理。野菜を加えて粥やポタージュにする。
○カモシカのローストIsard Rôti
かつてのバスクの名物。

ベアルンの料理
○ガルビュールGarbure Bearbause
ベアルン地方が起源の豆と野菜、ベーコンやコンフィの煮込みスープ。煮込みを意味するスペイン語の「ガルビアスgarbias」から転じた語。昔は「トゥッパン」という専用の土鍋を用い、竈で調理した。コンフィの脂たっぷりの料理は豊かさの印でもあった。ハム、空豆、インゲン豆、ジャガイモ、キャベツなどを煮込み、途中でガチョウのコンフィを加え、さらによく煮込んでからパンを並べたスープ皿に注いで食べる。
○ウイヤOuillat
ベアルン地方の野菜と卵のスープ。ラテン語olla「陶製鍋、壺」が語源。
○クージネットCousinette
野菜と香草を仔牛のすねと煮込んだベアルン地方のスープ。
○ブロワBroye
トウモロコシ粉または小麦粉と野菜のだし汁で作るベアルン地方の粥。この粥を冷ましてから切り、フライパンで焼いたものもこう呼ぶ。
○アンリ4世風プ・ロ・ポ Poule au Pot HenriW
「土鍋の雌鶏」の意味。ルネサンス期にはすでに存在した料理。鶏に詰め物をして作るのが原則。ブルボン王朝を開いたベアルン出身の「フランスの良き王」と呼ばれたアンリ4世は、家族の祝い事や団欒にふさわしい料理として、全国民の毎日曜日のメニューに命じたという。ハム、ニンニク、エシャロット、牛乳に浸したパン、卵、香辛料などで作ったファルスを詰めた鶏を、ポ・ト・フーのように大鍋で玉葱、人参、ポロネギなどの野菜とともに煮込んだもの。
○パローンブの煮込みSalmis de Palombes
野鳥を使った料理。