サントルの地方料理
<ロワール川流域の料理> <オルレアネ、ベリー地方の料理>

<ロワール川流域の料理>

ロワール川の中流域、なかでもトゥーレーヌ地方は肥沃な沖積土と豊富で味のよい果実や野菜で知られる。しかしこの地方の料理文化を大きく特色づけているのは、何といってもロワール川とその数多くの支流がもたらす様々な川魚の料理であろう。特に名高いロワール本流のアローズ(ニシン科)、サケ、シェール川のブロシェ(川カマス科)、アンドル川のコイをはじめ、ペルシュ(スズキ科)、カワマス、エクルヴィス(アメリカザリガニによく似た大きなはさみをもつ甲殻類)、ウナギといった、あらゆる種類の淡水の魚介類がとれる。「よい材料にさりげないソース」、「質のよさを生かしたシンプルな料理」というこの地方の格言は、これらの川魚料理において最もよく生かされている。

魚料理
○ブロシェのクネルQuenelles de Brochet
フランス料理では魚をすり身にしてクネルやムースなどにすることが多い。各種の魚の中でもすり身にして最もおいしいものといえばブロシェだ。独特のねばりが出て口当たりがよい。クネルはリヨンでもよく作られる。ブロシェのすり身にバター、卵などを混ぜ込み、パーナードと呼ばれるつなぎの生地(パンを牛乳で煮込んでから冷ましたものとシュー生地とがある)と合わせてゆでたもの。ブロシェは川カマスの一種で、貪欲さで知られる肉食性の淡水魚。
○フィレンツェ風ブロシェのムースMousse de Brochet Florentine
ブロシェのすり身に卵、生クリーム、バターなどを丁寧に混ぜ込み、型に入れて湯煎にして焼いたもの。グラタン皿にゆでたホウレン草をしき、ムースを並べ、魚のだしと白ワイン、生クリームで作ったヴルーテソースをかけてオーヴンで焼く。フィレンツェの名はホウレン草を用いた料理によくつけられる。
○サケのグリエSaumon Grillé
ロワール川の秋の味覚はサケにつきる。ここを上ってくるサケはことのほか身が赤く、「エクルヴィスをえさにするからだ」ともいわれている。サケはシンプルに料理するほどおいしい。そのコツは、グリルをよく熱しておくこと。サケの切り身にバターを塗りながら両面をこんがりと焼き上げ、その間に塩、胡椒する。こうするとサケのもつ余分な脂がとれて繊細な味が生きてくる。焼き立てにレモンを搾り、エシャロットやパセリを混ぜ合わせたバター、あるいはオランデーズソースを添える。なお、大西洋のサケはニジマス属に属しており、日本近海でとれるサケ属の魚とは異なるが、形は大変よく似ている。
○アローズのロースト オゼイユ風味Alose à l'Oseille
春から初夏にかけて、産卵のためロワール川を上ってくるアローズは、同じ仲間のニシンよりやや大きめの魚。骨が多くて食べにくいのが難だが、その身はやわらかくて風味に富んでいる。この持ち味を生かした食べ方がこれ。たっぷりとバターを塗ってオーヴンでローストしたアローズに、焼き汁とバターで炒めたオゼイユに生クリームを加えたソースをかけたもの。「オゼイユはアローズの伴奏をするためにある」といわれるほど、この魚の繊細な味によく合う酸味のある野草である。詰め物をして焼いた、アローズの詰め物Alose de Loire Farcieにも必ずこのオゼイユが入る。
○アローズの蒸し焼き オゼイユ風味Alose Brasée à l'Oseille
オゼイユをバターで炒め、その上にアローズをのせてオーヴンで蒸し焼きしたもの。
○グージョンのフライFriture de Goujons
グージョンはコイ科の小魚。とりたての活きのいいグージョンを油で揚げる。この熱々のフライを塩とレモンだけで食べる。
○淡水魚のマトロートMatelote de Poissons d'Eau Douce
マトロートというのはワインを使った魚の煮込みのことで、フランス全土で人気がある。ふつうは淡水魚で作るが、ノルマンディ地方では平目、ムール貝などの海の幸も用いる。ロワール流域のマトロートは、この辺りでとれる川魚なら何でもよく、それを赤ワインで玉葱や香辛料とともに、さっと煮込んで食べる。これに小玉葱のグラッセ(砂糖少量とバターを加えた水の中でつやを出すように煮たもの)、マッシュルームのソテーをつけ合わせ、パンの小片をバターで揚げたクルトンCroutonsがあれば、申し分ない。

トゥーレーヌ料理
○トゥールのリエットRillettes de Tours
リエットは、豚や鶏などの肉を煮て繊維状にほぐし、脂肪とともに固めたペースト。古フランス語rille「豚肉の塊」に指小辞etteをつけた語。西フランスもののが名高いが、アンジュー地方アンジェでは豚のばら肉、トゥールでは肩肉、ル・マンではがちょうを用いることが多い。15世紀以前に生まれた古い伝統的な料理。大食家としても知られたトゥール生まれの文豪バルザックにとっても、少年時代の思い出の料理の1つであった。彼の代表作の1つ『谷間のゆり』の冒頭部では、同級生がお弁当に持ってくるおいしそうなリエットについて、生き生きと描写されている。

作り方は、細かく刻んだ豚肉をラードで4、5時間かけてゆっくりと煮る。それをすりつぶして塩、胡椒で味を調え、煮ているうちに出てくる脂肪を取り残しておいて最後に加え、混ぜ合わせる。これを冷まして陶製の壺に入れて、上からラードをかぶせる。このラードの白いおおいが空気を遮断し、リエットの風味を守り、長く保存させる役割をする。火の通し方によって色は違ってくるが、豚肉で作ったコンビーフのようなもの。パンに塗って食べる。地域によっては豚肉の他に、ガチョウ、ウサギ、鶏などの肉で作ることもある。農民たちは冬に向かう11月に豚を殺し、リエットその他の貯蔵品を作った。

Les Caves de Marson,
Rou Marson
○リヨンRillons
リエットの仲間。大きな塊に切った豚肉の三枚肉(または、ばら肉、肩肉)を焼き色を強くつけながらラードで煮込んだもの。
語源はリエットと同じで、指小辞onをつけたもの。リヨーRillaudsと呼ばれることもある。(リヨはアンジュー地方のもので、リエットの倍くらいの大きさのものを指すという説もある)

作り方は、豚ばら肉を50gほどの塊に切り、塩、タイム、ローリエ、牛乳とともに冷蔵庫で24時間なじませる。たっぷりのラードを弱火にかけて溶かし、胡椒とともに肉を入れて加熱する。牛乳の代わりにヴーヴレの白ワインに漬け込むとトゥーレーヌのリヨンとなる。

Charcuterie du Vinci, Tours

La Strasbourgeoise, Chartres
○トゥーレーヌ風キッシュQuiche Tourangelle
タルト型に練りパイ生地をしき、リエット、卵、生クリームなどを入れて焼いたもの。

○鶏の血入り煮込みGéline au Sang
この地方の代表的な伝統料理。たいていの農家の庭先にいるジェリーヌと呼ばれる黒い鶏を利用したもの。鶏ののどぶえに小型ナイフで傷をつけ、逆さにしてワインを入れた容器に血を受ける。羽をむしり、内臓を取り出した後、切り分け、肉はもちろん、とさか、首、脂身などほとんど丸ごとぶつ切りにして、たっぷりの玉葱と一緒に炒め、赤ワインや水を加えてゆっくりと煮込んでいく。仕上げにとり分けておいた血を注ぐ。
○豚のステーキ プラム添えNoisettes de Porc aux Pruneaux
トゥーレーヌ料理の大きな特徴の1つは、料理に果物を加えることである。特に豚肉と果物は組み合わせて料理することが多い。なかでも干しプラムのもつ特有の酸味が豚肉とよく合うといわれる。メダル形に切って両面をバターでこんがりと焼いた豚肉に、1晩白ワインに漬けて戻した干しプラムをワインごとゆっくりと煮て添えたもので、肉の焼き汁に、プラムの煮汁を加えて煮つめたソースをかける。
★干しプラムにするのに適しているのは、サント・カトリーヌ・ド・フィエルボワ種とル・プティ・ダマ種。作り方は、プラムがまだ夜露にぬれている早朝、よく熟して傷のないものを摘み取って乾燥させる。その後さらにオーヴンで完全に水分を抜き取ってしまう。こうして白い粉をふいたトゥールの干しプラムができあがる。干しプラムは水やワインの中で戻すことが多いが、生に近い状態に戻すには紅茶を沸騰させた中に入れて煮立ててから、そのまま冷ましておくとよい。トゥールのプラムは、何世紀も前から大変有名で、国王フランソワ1世(1494〜1547)の結婚式の日、花嫁のクロード王女は宴卓に出されたプラムがたいそうお気に召して、そのプラムに自らの名を与えたほど。このプラムは「レーヌ・クロード種」といわれ、現在でも高級品とされている。
○クルミのブドウ汁漬けCerneaux au Verjus
実が成熟しきる直前に採集して取り出したクルミの果肉を、これも熟し切っていない酸っぱいブドウの汁に塩、胡椒して、その中に数日漬け込む。香草のセルフィーユ(チャーヴィル)をふりかけ、バターを塗った黒パンのパン・ビPain Bisと一緒に食べる。
○トゥール産カルドンのグラタンCardons de Tours au Gratin
カルドンというのはアーティチョークの一種。しかし形はセロリを少し大きくしたようなもの。茎を食べるが、味、香りともセロリを少しまろやかにしたようなものだ。まず筋をとり、適当な大きさに切るのだが、あくが出て黒ずんでしまわないように、切り口にはレモンをこすりつける。それから白くゆであげるために、小麦粉、塩、レモン汁を加えた液の中で2時間ほど煮て、やわらかくしてから使う。これをベシャメルソースであえて、チーズを混ぜて、ゆっくりとオーヴンで焼く。ソースはこころもち強めに味つけする。
○野ウサギの煮込み シノン風味Lièvre au Chinon
トゥールからロワール川を下っていくと、右手にブルグイユ、左手にシノンのブドウ畑が姿をみせる。ともにさわやかなルビー色をした比較的軽い飲み口の赤ワインを産する所として有名だ。これはそのシノンの赤ワインで煮込んだ郷土料理の1つ。ブルグイユの赤を飲みながら、これを食べるのが粋だとされる。干しプラムを添える。
○サグルヌSagourne
バターで炒めた牛の膵臓に刻みパセリとニンニクをふった料理。

<オルレアネ、ベリー地方の料理>

オルレアネ地方、ベリー地方には食通をうならせるものはほとんどない。しかし、野菜、果物栽培、牧畜は盛んに行われている。

パテ、テリーヌ
シャルトルのパテPâté de Chartres
シャルトルはパリの西南に位置する市で、12世紀に建てられたゴシックの大聖堂で有名だ。ここは大聖堂建設の頃からすでに「フランスの穀倉地帯」としての役割を担っており、質量ともに他の追随を許さない。そしてこの広大な小麦畑がヒバリやチドリなどの隠れ家となっていた。シャルトルのパテは昔はチドリなどで作っていたが、現在ではキジ、ヤマウズラの類を用いる。材料の野鳥は羽をむしり、内臓を取り出して骨を抜き、腹の中をきれいにする。その中に仔牛肉、豚の背脂、各種香辛料、酒などで作ったすり身を詰める。これをボース産の小麦粉で作った折りパイ生地で包み、焼き上げる。

このシャルトルのパテには、たいへん古い伝説がある。この国がまだガリアと呼ばれていた頃、フン族の王アッチラが猛烈な勢いで侵入してきた。シャルトルの市民は巨大なウサギのパテを献上して王の機嫌をとったという。しかし現在、シャルトルのパテをウサギで作ることはないし、シャルトルのパテといえば既にルイ14世の頃から野鳥のパテのことをいう。


La Strasbourgeoise, Chartres
ヒバリのパテPâté d'Alouettes
ボースのヒバリで作るこの地方の名物。特産地といわれている町の名をとってピティヴィエのパテ Pâté de Pithiviersとも呼ばれる。シャルトルのパテと同じように作るが、風味をよくするため中にフォアグラやトリュフを詰めることもある。
復活祭のパテPâté de Pâques
ベリー地方のものが特に有名。練りパイ生地を広げ、仔牛肉や塩漬けの豚肉、玉葱などを挽いて味つけしたものをしく。この上に半分に切った固ゆで卵をのせ、上からもう1度挽いた肉をかぶせる。生地で包み込みオーヴンで焼く。切り分けたとき、真ん中に新生のシンボルの卵がのぞく。
ジャガイモのパテPâté de Pommes de Terre
ジャガイモを詰めて生地でふたをするパテ。カボチャでも同じように作る。
ベリー風テリーヌTerrine Berrichonne
テリーヌという料理はオーヴンで焼いたものをさすとはかぎらない。これはウサギを使ってテリーヌの形に固める煮こごりの一種。香辛料入りの白ワインに漬け込んだ、詰め物をしたウサギを油で焼き色をつけてから漬け汁の中で煮くずれるまでゆっくり蒸し煮にする。テリーヌ型に移して冷ますと、翌朝にはゼリー状に固まっている。

肉、野菜料理
羊のもも肉7時間煮Gigot à la Sept Heures
ベリー地方では羊の飼育が盛んだ。鍋にもも肉、人参、玉葱、ニンニク、塩、胡椒を入れ、ブイヨンを注ぎ、肉がスプーンでほぐせるまで煮る。肉は取り出して皿に盛り、煮汁は漉してとろみをつけて添える。ベリー地方の代表的な田舎料理。
○羊のサルシフィ入り煮込み Ragout de Mouton au Salsifis
フランスでは羊を煮込む場合、だし汁を使わずに水を用いることが多い。羊独特の味と香りを楽しむためだ。野菜も羊の風味を消すような強い味のものは避ける。人参、カブ、サルシフィ(西洋ゴボウ)、ジャガイモなどがよい。
ブールジュ風羊の肝臓のソテーRognons de Mouton à la Mode de Bourges
炒めた羊の腎臓にワインの入ったソースをかけて食べる。これもベリー地方の代表的な田舎料理。
ソローニュ風鹿の背肉のステーキCotelettes de Chevreuil à la Slolgnote
オルレアネとベリーの境界にあるソローニュの森はフランス屈指の猟場である。ステーキ状にした鹿の背肉を、オリーヴ油とバターを使って強火で両面に焼き色をつけるだけの簡単な料理。根セロリのピュレを添え、野鳥獣の料理によく使う胡椒のきいた酸味のあるポワヴラードソースをかけて食べる。
○ガーティネ風ジャガイモのソーセージ Saucisses de Pommes de Terre du Gâtinais
マッシュポテトを同量のシュー生地と混ぜ、バター、ナツメグ、塩、胡椒で調味し、ソーセージ型にまとめる。油でじっくり揚げるか、ゆがいて、マディラ酒の香りのきいたフィナンシエールソースやヴルーテソースをかけて食べる。
○ブレゾワ風皮つきジャガイモの煮込み Pommes de Terre en Robe de Chambre du Blésois
豚の腹の脂肉は一口大に切る。ジャガイモはよく洗って皮のまま薄く切る。深い鍋に肉とジャガイモを塩、胡椒をしながら何層にも重ねていき、弱火でことこと煮る。
○シャルボネCharbonnée
ベリー地方の豚の煮込み。豚の血で煮汁をつなぐ。
○バルブイユBarbouille
ベリー地方、ニヴェルネ地方の鶏、ウサギの赤ワイン煮込み。
ベリー風ジャガイモのスープ煮Pommes de Terre Berrichonnes
小さな鍋でジャガイモを1度炒めてからスープで煮たもの。
カラスのスープSoupe au Corbeau
オルレアネに伝わる珍しいスープ。カラスはできるだけ若いものを選び、一口大に切る。一口大に切った牛肉と、ポ・ト・フーのように、人参、カブ、セロリ、玉葱を加えてじっくりと煮ると、おいしいスープができあがる。
○フロマンテFromentée
未熟小麦で作る粥。中世には存在していたベリー地方発祥の貧困層の料理。