イル・ド・フランスの地方料理

豊かな自然と歴史的背景が相まってイル・ド・フランスの料理を作り上げてきた。ここには一言で言い表せる地方色はない。むしろ大革命を契機に貴族の料理はフランス中、世界中に広がり、我々が思い浮かべるいわゆるフランス料理となっていった。多種多彩なソースの多くは、この土地で生まれている。主なものではベシャメルソース Sauce Béchamel、ベアルネーズソースSauce Béarnaise、ベルシーソースSauce Bercy、ロベールソースSauce Robertなどがある。また、豪華で種類の豊富なパイ料理、彩りの美しい野菜料理も、この地方の料理の特徴をよく表している。

パイ、テリーヌ
野鳥のパテPâté de Gibier
パテはもともと肉などの材料の香気、うま味、汁が外に出てしまうのを防ぐために生地でくるんで焼いたものであった。フランスではすでに14世紀、最初の料理書を作ったといわれるタイユヴァンの本に登場する。それが次第に中の肉だけでなく、外の皮も味わうようになるにつれ、洗練されたパイ生地に変わってきた。生地で中身を包み込む場合、肉や魚をその形のまま包むものと、すり身などにして包むものとがある。ウズラやツグミなどの野鳥にはネズの実の甘味のある香りがよく合う。肉を漬け込む酒も、ネズの実の香りをつけたジンを使うとよい。野鳥と仔牛肉、鶏肉、豚の脂を挽いてファルス(詰め物)作るが、この脂身の割合によって口当たりが決まる。パイのふたに穴をあけるのは、焼いている間に出てくる蒸気を逃がすため。
ひな鶏のトゥルトTourte de Poussin
ひな鶏をある程度ローストしておいてから、セップ、ベーコン、小玉葱などとともにパイ生地にのせ、上からもパイ生地をかぶせて焼いたもの。トゥルトとは「丸い形のパン」という意味からきた言葉である。
帆立貝のパイケース詰めFeuilleté de Saint-Jacques Bohémienne
軽く焼き上げたパイにフォアグラと帆立貝のソテーをのせ、パター風味のソースをかけて、パイのふたを添える。アスパラガスをゆでてパイに盛るところも多い。
野ウサギのパテPâté de Lièvre
肉のパテを作るとき最も気を使うのは、どんな酒に肉を漬け込むかである。野ウサギの場合はカイウサギよりも香りがずっと強いので、骨を砕いて煮込んだ汁を加えると一段と野趣が深まっておいしい。
鴨のパテPâté de Canard
パテやテリーヌに鴨はよく使われる。胸肉は棒状にして、酒と香辛料に漬け込む。もも肉などは挽いてファルスにする。このファルスに骨を煮出した汁や、鴨の肝を加えると、一層風味を増す。ファルスの味つけによく使われる香辛料は、胡椒、ナツメグ、生姜、クローヴ(丁字)。この4つのものを混ぜ合わせたキャトル・エピスという混合香辛料も売られている。
○クーリビヤックCoulibiac
サケを各種の材料とともに独特のソースであえ、生地で包んで焼いたもの。ロシアではクレビャーカと呼ばれる。他にスズキを丸のまま包む、スズキのパイ包み焼き Loup en Crouteもある。

La Strasbourgeoise, Chartres
ヴォ・ロ・ヴァンVol-au-Vent
その名のとおり(volは飛ぶ、ventは風)、軽い口当たり。考案者はアントナン・カレム。厚さ5mmほどの折りパイ生地を直径約15cmに丸く切り、2枚重ねる。上にのせた生地はふちから1、2cmのところで輪型に筋目を入れ、縁に切り込みを入れて高温のオーヴンに入れると、パイは高くふくれ上がる。筋目をつけた部分から上の皮をはずしてふたとする。中に好きな詰め物を入れ、ふたをして供する。甘いものを入れればデザートに、肉や魚を入れれば一品料理またはオードヴルになる。雄鶏の腎臓、仔牛の胸腺、マッシュルーム、肉のすり身などを使ったフィナンシエール風ヴォ・ロ・ヴァンVol-au-Vent à la Financière、ムール貝入りのマリニエール風ヴォ・ロ・ヴァンVol-au-Vent à la Marinièreが有名。
テリーヌTerrine
フランス語のパテはときとして材料をパイ生地で包まず、そのかわりに陶製の器で焼いたテリーヌもさす。テリーヌはもともとこの陶製の深い器を意味する言葉であったが、器の中に豚の背脂を敷き、詰め物をして再び背脂でおおい、ふたをしてオーヴンで焼いた料理も意味するようになった。中身が肉の場合、まず好みの肉やハム、豚の背脂などをさいの目や棒状に切り、香辛料、ブランデー、マディラなどの酒に漬け込む。別に肉を挽き、酒、香辛料で味つけする。テリーヌ型に背脂を敷き、まず挽いた肉を詰めて、間に漬け込んだ肉やハムを入れ、また挽いた肉をのせる。背脂をかぶせてからふたをしてオーヴンで焼く。冷ましてから1切れずつに切ってオードヴルとして供する。つけ合わせは多くの場合、コルニションと呼ばれる小型のキュウリのピクルスと、肉汁から作るアスピックゼリー。
魚のテリーヌの白バターソース添えTerrine de Poisson Sauce Beurre Blanc
魚で作るテリーヌには、魚肉の歯ごたえを味わう楽しみがある。つなぎに使われるバターや生クリームの量によって舌触りは違ってくる。魚の場合その味を生かすため、あまり風味をつけずソースを添えて供することが多い。
野菜のテリーヌTerrine de Legumes
野菜の持つ風味を生かすため、くせのない豚、仔牛、鶏などの肉でファルスを作り、その間にゆでた野菜を彩りよく並べて層にして焼く。冷やして、さっぱりしたソースを添える。
頭肉のゼリー寄せFromage de Tête
豚や仔牛の頭肉で作った煮こごり。耳や皮にたっぷり含まれているゼラチン質を利用する。1、2 cmの厚さに切り、ヴィネグレットソースやラヴィゴットソースのような酸味のきいたソースをかけて食べる。

野菜料理
アスパラガスのヴィネグレットソース添えAsperges à la Vinaigrette
アスパラガスはルイ4世が好み、宮殿にその菜園まで作らせた。以来、アスパラガスはフランスで盛んに賞味されるようになった。フランスでは太陽の光を浴びたグリーンよりも、土をかぶせて育てたホワイトの方が繊細でおいしいとされている。やわらかく、しかも歯ごたえを残すようにゆでるのがコツ。熱いまま供するなら溶かしバターかオランデーズソース、冷ましてからならヴィネグレットソースやマヨネーズソースがよく合う。
マッシュルームのサラダChampignons de Paris en Salade
白いマッシュルームのことをパリのシャンピニオンと呼ぶ。パリ郊外の石切場で栽培されていたことから名づけられた。新しいものは生のままサラダにして土の香りを味わう。食べる直前に薄切りにしてヴィネグレットソースをかける。
白インゲン豆のクリーム煮Haricots de Soissons à la Crème
ソワソン産の白インゲン豆の煮物。
サン・モールの野菜のブイヨン煮Julienne de Saint-Maur
各種野菜を千切り(ジュリエンヌという)にして、ブイヨンで煮込み、仕上げに卵を加えたもの。ブイヨンを多くするとスープになる。
ポム・スフレPommes Soufflées
ジャガイモを繊維に沿って2、3 mmの厚さに切り、洗わずに水気をふきとる。低温の油で火を通してから今度は高温の油に入れると、風船のようにふくらむ。肉料理のつけ合わせに出される。この料理は偶然によって生まれた傑作の1つ。1837年、パリとサン・ジェルマン・アン・レー間に鉄道が開通した日、鉄道会社は客をレストランに招待した。ところが汽車の遅れのため、コックが用意したジャガイモのフライが冷めてしまった。一行が到着してから冷めたジャガイモを油の中で温め直すと、みるみる風船のようにふくれ出したというのである。
○アントルコートステーキ マルシャン・ド・ヴァン・ソース添えEntrecôte Marchand de Vin
エシャロットをワインで煮つめたソースはステーキによく添えられる。このソースは「ワイン商人」の名がついている。
グリンピースの蒸し煮 ベーコン風味Petits Pois Braisés au Lard
グリンピース、ベーコン、小玉葱、人参を煮込んだもの。フランス人の家庭の食卓にはグリンピースがしばしば登場する。レタス、小玉葱とともにバターを加えて水から煮込んだ料理には「フランス風グリンピースの煮込みPetits Pois à la Française」という名がついているほど一般的なお惣菜。

ポタージュ
○ポタージュ・ジェルニーPotage Germiny
フランス語でポタージュ Potageとは、日本でいうスープ全体をさし、potすなわち鍋で煮ることからこの言葉が生まれた。ポタージュは大きく分けて、澄んだものと、とろみをつけたものおよび具のたっぷり入ったものになる。スープSoupeは後者に入り、現在では手の込んでいない家庭的なものをさすことが多い。春になると人々は菜園や道端に生えてくる野草、オゼイユの葉を摘んでポタージュを作る。このポタージュがお気に入りだった19世紀のフランス銀行総裁ジェルミニー伯の名をとってこの名がつけられた。作り方は、ちぎった葉をバターでしんなりするまで炒めたところにコンソメを加える。この中に卵黄と生クリームを合わせたものを加えてとろみをつけていく。とろみは、スプーンを入れると表面に薄い膜が張る程度がちょうどよい。仕上げにセルフィーユのみじん切りを散らす。野草のもつ酸味をクリームがやわらかく包み込み、食欲をゆっくり刺激してくれるこの料理は、フランスのポタージュのなかでも最も豪華でデリケートだといわれる。
グリンピースのポタージュPotage Saint-Germain
初夏のもの。かつてグリンピースはパリ西南のクラマール産が最上品といわれ、パリ盆地全域で作られていた。ゆでて裏漉ししたグリンピースをブイヨンでのばし、バターを加えて仕上げたきれいな緑色のポタージュ。
人参のポタージュPotage Crécy
アレクサンドル・デュマがフランス最高の品質とほめちぎったクレシー産の人参を用いることからこの料理名がついた。クレシーはパリの東、ブリー地方にある町。このポタージュのつなぎにはよく米を使う。仕上げに生クリームをたっぷり加える。
○クレソンのポタージュPotage Cressonnière
クレソン、ポロネギ、ジャガイモで作るポタージュ。
ポタージュ・パルマンティエPotage Parmentier
ジャガイモのポタージュ。ジャガイモをフランスに広めた農学者の名をつけた料理。
○ポタージュ・アルジャントゥイユPotage Argenteuil
アスパラガスのポタージュ。かつてのアスパラガスの特産地アルジャントゥイユにちなんでいる。
オニオンスープSoupe à l'Oignon
薄切りにした玉葱を飴色になるまで時間をかけてじっくりと炒める。水と塩、胡椒を加え、しばらく煮込む。薄切りのフランスパンをオーヴンで焼いて、熱くしたスープ皿にしき、おろしたチーズをふって熱いスープを注ぐ。このスープをオーヴン用の深みのある耐熱の器に入れてパンをのせ、チーズを上からたっぷりふりかけてオーヴンで焼き色をつけると、オニオングラタンスープ Soupe a l'Oignon Gratinéeになる。

煮込み料理
牛肉のミロトンMiroton de Boeuf
古くから伝わる残り物料理。ポ・ト・フーなどの牛肉の余ったときに作る。肉を薄切りにして皿に並べる。玉葱をゆっくり炒め、ワインビネガーを加えて作ったちょっと酸っぱいソースをかけ、パン粉をふってオーヴンで焼く。
野ウサギの煮込みHaricot de Lièvre
カブ入りのシチュー。バターで肉に焼き色をつけてから野菜とともに白ワイン、ブイヨンで煮込む。同じようにして羊の煮込み Haricot de Moutonも作られる。他にも羊のナヴァランNavarin de Mouton、ウサギのワイン煮Gibelotte de Lapin、牛肉の煮込みブッフ・ア・ラ・モードBoeuf à la Modeなどが有名。
ペール・ラテュイル風鶏の煮込みPoulet Sauté Père Lathuile
ペール・ラテュイルとは、18世紀末、パリにあった店。文人、芸術家が足しげく通ったという。この料理は店の名物で、バターで鶏を炒めた後、アーティチョークの芯、ジャガイモとともに煮込んだもの。1814年、対仏同盟軍によってパリが包囲されたとき、この店は防衛軍のモンセイ将軍の司令部となったが、弾丸を浴びているさなかにも鶏を煮込む鍋は火にかけられていたというエピソードがある。
○マレンゴ風鶏の煮込みPoulet Sauté Marengo
ナポレオンの料理人デュナンがイタリアはマレンゴの戦いの夜、即席の材料で作った料理。ナポレオンは鶏が大好物だったが、いつもと違う料理法を命じた。デュナンは一口大に切った肉を炒めてからトマトとニンニクを加え、コニャックと水を少量注ぎ、煮込んだ。つけ合わせは手元にあった卵をエクルヴィスとともに鶏の周囲にあしらった。今では鶏だけでなく仔牛肉でもよく作られ、つけ合わせもマッシュルームと小玉葱、あるいは米料理のことが多い。その他の鶏料理にベルシー風鶏の煮込み Poulet Sauté Bercyがある。