ノルマンディの地方料理

ロワール川流域のトゥーレーヌ地方がフランスの庭なら、ありとあらゆる食べ物がたっぷり揃ったノルマンディ地方は、さしずめフランスの農場というところだろう。海岸沿いに延々と続く田園、リンゴやナシがたわわに実った果樹園、冬も枯れることのない牧場でのんびりと草をはむ牛や羊の群れ、農場で飼われている鶏や鴨などの家禽類、そしてリンゴから作られるシードル、カルヴァドス、あるいは牛乳、バター、生クリーム、チーズなどの乳製品はノルマンディの誉れである。

クリーム料理
この地方の生クリームは少し酸味があり、突きさしたらスプーンが立つくらい濃厚である。料理名にノルマンディ風とつけば生クリームが使われていることが多い。
○ノルマンディ風舌平目のクリーム煮Sole Normande
これはノルマンディ風と呼ばれる料理の中でもとりわけよく知られている。舌平目は内臓を取り、皮をはがして丸ごとグラタン皿に入れ、白ワインを注ぎ、バターの小片を散らして火を通す。魚は皿に盛り、残った煮汁を鍋に移して煮つめ、生クリームを加えて、卵黄やバターでとろみをつけ魚にかける。皿にはノルマンディの海の幸、ムール貝やクルヴェット(小海老)、それにカキをゆでて飾ったり、エペルラン(ワカサギの一種)のフライ、マッシュルームやトリュフを盛り合わせることもある。白ワインやトリュフを使うと、ノルマンディ生まれの料理とは考えにくいため、元々は白ワインの代わりにシードルが使われていたといわれる。英仏海峡で水揚げされた新鮮な舌平目にノルマンディのコクのある生クリームが結びついたこの料理に、ノルマンディの名がつけられても不思議ではない。
○エイのクリーム煮Raie à la Crème
舌平目と同様に料理するが、このソースにはパセリのみじん切りを加える。
○オージュ渓谷風鶏のクリームソース添えPoulet Vallée d'Auge
オージュの谷で収穫されるリンゴから作るカルヴァドスとシードルと使った料理を「オージュ渓谷風」と呼ぶ。適当な大きさに切った鶏をバターで炒め、カルヴァドスをふりかけてアルコールを燃やし、鶏を取り出す。残った焼き汁に生クリームを混ぜて煮つめ、鶏にかける。
○仔牛のソテー クリームソースCôtes de Veau à la Crème
仔牛の骨つき背肉を、鶏と同じように調理する。
○ノルマンディ風鶏のクリーム煮Poulet à la Normande
切り分けた鶏をバターで炒め、マッシュルーム、玉葱を加え、カルヴァドスを注ぎ、アルコール分のみを飛ばす。クリームを加え、少し煮て最後に卵黄でつなぐ。リンゴのソテーを添えることが多い。
○ガチョウのクリーム煮Oie à la Crème
調理法は鶏と同じ。小さいガチョウの方が肉がやわらかく、この料理にふさわしい。
○サヤインゲンのクリーム煮Haricots Verts à la Crème
サヤインゲンをバターを吸わせるように炒め、最後に生クリームを加えて仕上げる。
○コー風ジャガイモのサラダSalade Cauchoise
ゆでたジャガイモをレモンを加えた生クリームであえたもの。
○サルシフィのノルマンドソース添えSalsifis à la Normande
サルシフィは、日本のゴボウと同じキク科。色は白く熱を加えるとやわらかくなる。日本ではバラモンジンあるいは西洋ゴボウと呼ばれる。ノルマンドソースは玉葱の薄切りをバターでよく炒め、小麦粉を加えてブロンド色になるまでさらに炒め、シードルで溶きのばし、塩、胡椒、ナツメグで調味し、生クリームとレモン汁で仕上げる。この料理はサルシフィをゆでて、ノルマンドソースをかけたもの。
○ノルマンディ風卵の重ね煮Oeufs durs Normande
固ゆで卵を縦半分に切り、耐熱容器に並べ、生のムール貝あるいはカキ、粗刻みのマッシュルームでおおい、さらにその上に固ゆで卵を並べ、ノルマンドソースをたっぷりかけ、強火で煮立たせる。仕上げにクルトンをあしらう。
○マッシュルームのクリーム煮 Champignons à la Crème
薄く切ったマッシュルームをたっぷりのバターを吸わせるように炒め、生クリームで仕上げる。
○ノルマンディ風アーティチョークの詰め物Fonds d'Artichauts Farcis à la Normande
アーティチョークをゆでたものに、マッシュルームのクリーム煮を詰める。仕上げにパセリのみじん切りをちらす。
○カマンベールのコロッケCroquettes de Camembert
カマンベールは白いかびの皮を薄くそぎ取って小さく切り、小麦粉、バター、牛乳とともに火にかけて溶かし混ぜる。塩、胡椒、ナツメグで調味し、冷ます。一口大の形にまとめ、溶き卵、パン粉をつけて揚げる。温かいオードブルに最適である。

名物料理
○ルーアン風仔鴨のローストCaneton à la Rouennaise
窒息鴨のロースト、血のソース添え。ルーアンの鴨は、シャラントで飼育されるナントの鴨とともに高く評価されている。小型のナントの鴨に対してルーアンの鴨はずっと大きい。また血を体内に残しておくために首を絞めて殺すので、肉は赤く、噛みしめるほどに肉汁の味が楽しめる。この料理は、鴨から抜いた肝、ベーコン、玉葱を細かく刻んで炒めて調味する。これを仔鴨に詰めてオーヴンで焼き、もも肉、胸肉を切り分けて大皿に盛る。がらはすりつぶして血のまざった汁をとっておく。これと鴨の焼き汁を、鴨からとっただし汁に加え、肝の裏漉しや赤ワインを入れてとろみのついたソースに仕上げ、肉にかける。レストランでは詰め物をせず仔鴨をレアに焼き、「プレス・ア・カナール」という専用のプレス器を使って、ザーヴィスマンが客の目の前でソースを仕上げる。もともと荷物の下敷きなって窒息死した鴨を安く手に入れたレストランのシェフが考え出した調理法だといわれる。

ルーアン駅前のホテル・ディエップHotel Dieppeにあるレストラン「Quatre Saison:キャトル・セゾン」にはルーアンの鴨保存委員会がある。ここを訪れると、まず鴨は鴨専用のオーブンにつるして焼く。ほどよく焼けたら、テーブルの脇に舞台がセットされ、おもむろに鴨がオーブンからとりはずされて運ばれてくる。
  
手馴れた様子で切り分け、手羽と腿は厨房で調理。胸肉をはずし、残ったガラや内臓をつぶして血を搾る。
  
鍋にコニャックを入れアルコールをとばし、鴨の出汁や内臓、フォンドボー、5種類のスパイスで作ったソースを入れる。ポートを加える。レモン汁を搾り、血を少しずつ加える。バターを入れてホイッパーで混ぜ、塩、胡椒で味を整える。皿にソースをたっぷり敷き、胸肉を並べる。付け合せはリンゴのソテーとセロリのムース。
  
生臭いのかと恐れていたら、これがおいしい。ソースはまるでチョコレートのよう。スパイスがきいている。量も多すぎず。名物にうまいものあり!鴨は1人29ユーロ、最低2人からオーダー可。ワインは鴨に合わせてBeaune 1er cru (Bouchard Pere & Fils)をセレクト。
○ルーアン風羊の足の詰め物Pieds de Mouton Rouennaise
下ゆでした羊の足をだし汁でやわらかくなるまで数時間煮て、骨を抜きとる。別に炒めた玉葱、豚挽肉、パセリを混ぜ合わせ、塩、胡椒する。これを足に詰め、豚のあみ脂(クレピーヌ)で包み、溶かしバターをかけながらゆっくり焼いたり、溶き卵とパン粉をつけて揚げるように焼く。
○カーン風牛胃の煮込みTripes à la Mode de Cean
ゼラチン質の多い牛胃特有の弾力と味が、カルヴァドスやシードルの香りと渾然一体となった料理。4室に分かれている牛胃全部をよく洗って、下ゆでして四角くぶつ切りにする。牛か仔牛の足は骨を抜き同じ位に切る。玉葱、人参は粗く切る。口の小さいふたつきの鍋にこれらの材料を幾層にも重ね、ニンニク、タイム、ローリエ等の香辛料、調味料を加え、水、シードル、カルヴァドスを注ぐ。ふたをし、小麦粉と水で練ってもので封をして、8〜10時間弱火で煮るか、低温のオーヴンに入れる。昔は主婦が下ごしらえして、パン屋が火を通すといわれた。

La Taverne de Maitre Kanter, Caen
○アンドゥイユAndouille(またはアンドゥイエットAndouillette)
カーンから南西へ約60km離れた町ヴィールの名産。豚や仔牛の内臓の腸詰め。
○ノルマンディの脂Graisse Normande
牛、羊、豚の脂肉、特に腎臓のまわりの脂(ケンネ脂))や豚の皮についている脂に、香味野菜を加えてことこと煮たもので、漉して素焼きの壺に保存する。野菜料理、肉料理、スープに1さじ加えてコクを出す。
○ノルマンディ風スープSoupe Normande
ジャガイモ、キャベツ、ポロネギ、季節によってはサヤインゲンかフラジョレ豆(小粒のインゲンの一種)、そして香りづけにパセリの茎とセロリをやわらかくなるまで煮る。仕上げにノルマンディの脂を加える。(脂の代わりにクリーム、バターを使う人もいる)
○サヤインゲンのスープSoupe aux Pois de Mai
5月に出てくるサヤインゲンを使い、バターたっぷりのスープを作る。オゼイユの葉をバターを吸わせるように炒め、チャイブを入れて、ジャガイモを加えて炒め、水を入れてやわらかくなるまで煮る。塩ゆでしたサヤインゲンとゆで汁を加え、味を調える。スープ皿にバターと生クリームを1さじずつおとし、かりかりに焼いたパンを並べ、スープを注ぎ、セルフィユをちらす。
○アティニュールAttignole
ノルマンディ地方の豚の挽肉の肉団子。
○プーラールおばさんのオムレツOmelette de la Mère Poulard
モン・サン・ミッシェルで食堂兼宿屋を営んでいたアネット・プーラールが考案した料理。銅のボールに1人分2個の卵を割り入れ、空気をたくさん含ませるように泡立てる。長い柄のついたフライパンにたっぷりの有塩バターを入れ、他の調味料は一切使わずに焼き上げる。表面にはしっかり焼き色をつけ、中はふんわりと仕上げる。皿に返しながら2つに折る。

海の幸の料理
○オマールのローストHomard Rôti
オマールは港町シェルブールでよくとれる。生きたオマールを2つ割にして、塩、胡椒し、バターをかけながらオーヴンで焼く。焼いた油にパプリカの香りをきかせてソースを作り、オマールにかける。
○オマールの香り煮Demoiselles de Cherbourg à la Nage
小型のオマールをクールブイヨンでゆでたもの。
○プレ・サレの仔羊背肉ローストCarré de Pré-Salé Persillé
ブルターニュに続くモン・サン・ミシェルからコンタン半島にかけての海辺の牧草地で育つ羊は、潮の香りのする肉として珍重される。仔羊の背肉をオーヴンでミディアムに焼き、パセリのみじん切り、パン粉をたっぷりつけてこんがり焼く。ジャガイモのバター炒めを皿にしき、肉を盛りつける。
○コックのサラダSalade de Coques
トリガイの一種コックをゆでてヴィネグレットソースであえる。コックは白地に茶色の縞模様の3〜4cmの小さな貝。

シードルとリンゴ料理

○ノルマンディ風マトロートMatelote Normande
マトロートは淡水魚をワインで煮たフランス各地にある料理。ノルマンディでは海の魚とシードルで煮る。玉葱をバターで炒め、平目あるいはカレイのぶつ切りを加え、シードルを注いで煮込む。ブール・マニエ(バターと小麦粉半量づつ練ったもの)でとろみをつけ、ムール貝、クルヴェットを添えて出す。

○海の幸のシードル風煮Fruits de Mer au Cidre
舌平目やカレイ、ムール貝等の海の幸に、マッシュルームを添え、シードルで煮て、仕上げに生クリームを加える。短時間で煮るのがコツ。
○ノルマンディ風黒ブーダンBoudins Noirs à la Normande
豚の血を入れた腸詰めは、クリスマスミサの後、家族で囲む食卓に必ず出される。リンゴを必ず添えるのがノルマンディ風。バターで炒めたリンゴをつぶして皿にしき、その上に焼いた黒ブーダンをのせ、オーヴンで少しこげ目をつける。
○ノルマンディ風ガチョウの煮込みOie en Daube à la Normande
詰め物をしたガチョウをスープで煮た料理。詰め物には刻んだリンゴが入るし、つけ合わせにはリンゴのジャムが添えられる。煮込み用のスープにはシードルとカルヴァドスが注がれる。
○リンゴとサラダ菜のサラダSalade de Laitue aux Pommes
サラダ菜と皮をむいて薄く切ったリンゴを混ぜ、シードルから作った酢と生クリームを合わせ、塩、胡椒し、パセリを加えて軽く酸味のあるソースを作ってかける。
○ラングスティーヌの香り煮Langoustines à la Nage
シードルに塩、胡椒、クローブ、玉葱の輪切り、ブーケ・ガルニを加えて煮立て、ラングスティーヌを入れ、5〜6分煮たもの。
○豚のロースト マスタード風味Rôti de Porc à la Moutarde
ソースにシードルを使う。