プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュールの地方料理

フランスで最も太陽の輝きを実感させる地方、それがプロヴァンスである。料理はフランスというよりも、イタリア、スペインに近い。まず、ここでは菓子にいたるまで全ての料理にオリーヴ油が使われており、バターや植物油は普通は用いられない。また、フランス料理の中のニンニクの使用量は、南へ下るに従って増え、ここプロヴァンスで頂点に達し、ニンニクはプロヴァンスのバニラといわれるにいたっている。但し、日本で広く出回っている白いニンニクではなく、薄紫色がかった、香りのよりやわらかい種類を使うのが正統。第3の特徴はトマトの多用である。料理の中に形が見えない場合でも、甘酸っぱい味と、ほのかにさす赤みで、トマトが使われていることがわかる。そして忘れてならないのが、豊かな海の産物である。

<プロヴァンス>

ブイヤベース
○マルセイユ風ブイヤベースBouillabaisse à la Marseillaise
古の詩人に「黄金のスープ」とうたわれた、豊富な岩礁魚を使ったサフラン風味の贅沢なスープ。ブイヤベースとは「沸騰して下に落ちる(または煮立たせる、火を弱める)」の意味。ぐつぐつと泡を立てて煮ることに由来する。世界的にも有名な南仏名物だが、本来はマルセイユの郷土料理。19世紀、文学作品に多く登場したために有名になった。作り方は、魚は内臓を抜き、小さい魚はそのまま、大きいものはぶつ切りにする。口の広い大きな鍋に、刻んだ玉葱、ポロネギ、トマト、つぶしたニンニク、ういきょう、パセリ、ローリエ、タイムなどの香草類、干したオレンジの皮と一緒に、身の硬い魚を入れ、オリーヴ油をかけ、水(だし汁)をひたひたになるまで注ぐ。塩、胡椒して、サフランを加えて強火にかける。沸騰後5分したら、身のやわらかい魚を加え、さらに約10分間強火で煮るとできあがり。魚は取り出して皿に盛り、煮汁は漉して薄切りのパンを入れたスープ皿に注ぐ。好みでルイユRouille(赤唐辛子とニンニクをすりつぶし、オリーヴ油を徐々に加えながら混ぜて作る。湿らせたパンをほぐしたものや卵黄を加えることもあり、こうすれが味はやわらぐ)を加えて食す。魚は白身の魚に限るが、できるだけ多くの種類を使う方が味は複雑になり深みが増す。沿岸の岩場でとれた魚だけを使うのがよいとか、小魚はスープをおいしくするので必ず入れるとかいわれる。ラスカス(カサゴの一種)、サン・ピエール(ニシマトウダイ)、メルラン(鱈の一種)、アンコウ、ホウボウ、アナゴ、スズキなどがよく使われる。カニ、ラングスティーヌ、シャコ、ムール貝などの甲殻類を加えることもある。私が行ったレストランで聞いたのは、「ブイヤベースは地元でとれた新鮮な魚を4種類以上使うのがお約束だが、ここでは、カサゴ、アナゴ、ホウボウ、鱈など5種を使用している。それに輪切りのジャガイモ、ムール貝、沢カニを入れ、香味野菜とサフランで煮込む」とのこと。

Chez Loury,Marseillaise
○イワシのブイヤベースBouillabaisse de Sardines
玉葱とポロネギを軽く炒めてから、トマト、ニンニク、香草類を加え、水を注ぐ。ジャガイモを入れてほぼ火が通ったら、内臓を抜いたイワシを加えて煮る。スープと魚は別々の皿に盛りつける。
 
○干し鱈のブイヤベースBouillabaisse de Morue
干し鱈を水に漬けて戻し、塩抜きしてから用いる。作り方はイワシの場合と変わらない。
 
○ホウレン草のブイヤベースBouillabaisse d'Epinards
ホウレン草はゆでて細かく刻んでおく。玉葱のみじん切りを油で軽く炒めてから、よく水を切ったホウレン草を加える。水分がなくなってきたらジャガイモの薄切りを加え、塩、胡椒、サフランで調味する。熱湯を注ぎ、ニンニク、ウイキョウを入れて静かに煮る。ジャガイモが煮えたら卵を人数分だけ割り入れ、卵に火が通れば鍋のまま食卓に出す。他にジャガイモと卵だけで作るブイヤベースもある。
 
○ルヴェセRevesset
ホウレン草などと魚を煮た、プロヴァンス地方トゥーロンのスープ。プロヴァンス語revesir「もめごとをなくす」が語源。
 
○ブーリッド Bourride
ニンニク風味の白いブイヤベース。サフランを入れないだけで魚を煮る方法はブイヤベースと同じだが、煮汁を漉してから、卵黄を足したアイオリ(ニンニク入りマヨネーズ)を加えて、湯煎にかけて少し煮てとろみをつける。
 
○アイゴ・サウAïgo-saou(あるいはsau)
プロヴァンス語で水と塩の意だが、これもブイヤベースによく似た料理。白身魚だけを使い、サフランは入れない。ジャガイモを加えることもある。魚は何を入れてもよいが、ラスカスはブイヤベースのイメージが強いためか敬遠される。ルイユかアイオリを添える。
 

魚介料理
○小イカのフライSupions Frits
プロヴァンス地方ではイカやタコは料理に頻繁に使われる。イカはパン粉をつけて油で揚げ、十分に油切りをして皿に山盛りにし、塩をふりかけレモンを添えて供する。
○タコの煮込みPoulpes en Daube
下ごしらえしたタコをさっとゆでて1口大に切る。ブランデーか白ワインに香草、塩、胡椒を入れ、半日漬ける。鍋にオリーヴ油を熱し、ベーコン、玉葱、人参、ニンニクを炒める。色づいてきたら、タコと粗く刻んだトマトを加えて少し煮る。タコの煮汁を漉したものと、白ワイン、水を注ぎ、ブーケ・ガルニ(香草の束)、塩、胡椒を入れる。びったりとふたをして、2〜3時間蒸すように煮て、やわらかく仕上げる。煮汁を増やして、できあがる30分前に、洗った米とサフランを加えて煮込むこともある。
○エストフィナードEstofinade
戻した干し鱈の煮込み。ストフィナードStofinado、エストコフィナードEstocofinadoともいう。プロヴァンス語estocofi「干し鱈」の派生語。
○カティゴCatigot
ローヌ川でとれる魚(ウナギなど)の煮込み。
○鯛のウニソースDaurade à la Crème d'Oursins
クール・ブイヨンでゆでた鯛に、ウニとオランデーズソースと混ぜたソースをかけたもの。
○ウルシナードOursinade
プロヴァンス地方の魚の煮込み料理とともに供する、サバイヨンに似たウニ風味のソース。またはそれを添えた料理名。スープとして供することもある。
○ライトRaïte
香辛料、玉葱、トマト、クルミ、香草を赤ワインで煮た、干し鱈など魚料理用ソース。

肉料理
○プロヴァンス風牛肉の煮込み Beouf en Daube Provençale
南仏家庭料理の代表。ドゥーヴとはだし汁やワインに香草を加え、肉類や野菜、魚類を時間をかけて蒸し煮する料理。ローヌ河口に広がるカマルグ地方は、湿地帯であり、稲作や牧畜が行われている。ここの肉は沼地を歩き回るため筋肉が発達し、肉が硬いといわれる。そのため、それをやわらかくおいしく食べようとして、煮込み料理が発達したとも考えられる。ぶつ切りにした牛肉の肩肉やばら肉を玉葱とともに炒めて表面に焼き色をつけ、小麦粉をふり入れてさらに炒める。白ワイン、ブイヨンを注ぎ、ブーケ・ガルニを入れて煮込む。途中で粗く刻んだトマトと黒オリーヴを加える。弱火でじっくりと煮るのがポイントである。風味づけに、エルブ・ド・プロヴァンスとニンニクを入れることもある。
○ブルーファードBroufade
プロヴァンス地方の牛の赤ワイン煮。古くからある船乗り用の料理。マリネした肉に酢漬けの小玉葱とピクルスを加えて煮込み、仕上げにアンチョビバターを加える。皮ごとゆでたジャガイモをつけ合わせる。
○ガイエットGayettes
豚レバーとばら肉のプロヴァンス地方のあみ脂(クレピーヌ)包み。同義のプロヴァンス語gayetoが語源。豚レバーのファルス、豚ばら肉のさいの目、砕いたニンニク、塩、胡椒をよく混ぜてあみ脂で包み、ラードをかけてオーヴンで焼き、冷めてから食べる。
○リブレットRiblette
豚肉の薄切りにパン粉をつけてフライパンで焼いたり、グリルしたもの。

野菜料理
○プロヴァンス風野菜の詰め物Legumes Farcis à la Provençale(Farcis Provençaux)
さまざまな野菜をケース代わりに利用して、詰め物をしてオリーヴ油をかけてオーヴンで1時間位焼くか、ブイヨンで蒸し煮したもの。野菜はナス、ピーマン、ズッキーニ、トマト、玉葱などを使う。詰め物は何でも工夫次第で、例えばアンチョビを牛乳で湿らせたパンに混ぜてペースト状にしたものや、ポ・ト・フーの余った肉を刻んで、玉葱やニンニクのみじん切りと合わせたものなど。
・ズッキーニの米詰めCourgettes Farcis au Riz

ズッキーニは縦半分に切って種子をとり、ゆでるか炒めるかしてしんなりとさせる。スプーンでやわらかい白い果肉の部分をくり抜いておく。米をたっぶりの湯でゆで、これにおろしたパルメザンチーズと、くり抜いた果肉の刻んだものを混ぜ、調味する。これをズッキーニに詰めて、薄く油をひいたオーヴンプレートに並べ、パン粉かおろしチーズをかけて焼く。

・ズッキーニの詰め物Courgettes Farcies à la Provençale
くり抜いたズッキーニに、豚挽肉、おろしチーズ、パン粉、少量の牛乳、オリーヴ油を混ぜたものを詰めて焼く。
・プロヴァンス風トマトの詰め物Tomates Farcies à la Provençale
トマトはへたを切り取り、中をスプーンでくり抜き、逆さにして水分を切っておく。刻んだパセリ、ニンニク、パン粉、タイム、ローリエを詰める。フランパンにオリーヴ油を熱し、トマトを焼く。この後ふたをしてオーヴンで蒸し焼きする。

ブリストルホテル, Paris
○ティアンTian
プロヴァンス地方の土鍋、およびそれで作る野菜料理。アヴィニョン西方のコンタ・ヴネサンの野菜のティアンが有名。角切りしたナス(またはズッキーニ、カボチャ、ホウレン草など)をオリーヴ油で炒め、塩、胡椒する。ティアンまたは耐熱容器にトマト、ナス、溶き卵、ナツメグ、ニンニク、タイムを入れ、グリュイエールチーズをふりかけてオーヴンで焼く。
○パプトンPapeton
ナスのピュレと卵を混ぜて型に入れて焼いた、プロヴァンス地方アヴィニョンの名物料理。14世紀アヴィニョンにいたローマ法王Papeが語源。法王の三重冠に形が似ていたためにこう呼んだ。
○プロヴァンス風オムレツOmelette Provençale
オリーヴ油で十分に炒めたトマトとピーマンを中に詰めたオムレツ。黒オリーヴを飾る。
○クレスペウCrespeou
層状にした野菜のオムレツ。本来はカトリックの祝日に食べられる祝い料理。

オリーヴ、香草を使ったペースト、料理
○ピストゥPistou
生のバジルをニンニクとともに乳鉢でつぶし、オリーヴ油を少しづつ加えて作る。原形はジェノヴァのペーストPestoで、松の実、パセリ、おろしチーズが加わる。
 
○ピストゥスープSoupe au Pistou
ベースは実だくさんの野菜スープ。サヤインゲン、適当に切ったジャガイモ、ズッキーニ、ポロネギ、人参、トマト、インゲン豆を水に入れ、弱火で2時間程煮る。野菜が煮上がる30分前に乾燥パスタを加え、味を調える。火から下ろし、ピストゥソースを混ぜ入れる。おろしチーズを添える。

Baumaniere, Les Baux de Provence
○ニンニクのスープSoupe à l'Ail
水に、つぶしたニンニク、ローリエ、オリーヴ油、塩を加え、15分煮る。火から下ろして、卵黄でとろみをつけることもある。スープ皿に薄切りパンを入れスープを注ぐ。アイゴ・ブーリッドAigo Bouidoともいう。
 
○アイオリ Aioli(またはアイヨリAilloli)
プロヴァンスが生んだソースで、ニンニク入りマヨネーズ。ニンニクは皮をむき、乳鉢に入れて細かくすりつぶし、塩と卵黄を加えてよく混ぜ、オリーヴ油を少しづつ加えてマヨネーズ状にする。大皿に、ゆでた干し鱈、野菜、ゆで卵を盛り合わせ、このアイオリソースを添えるのが一般的な食べ方。この料理名もアイオリと呼ばれる。エスカルゴや甲殻類、イカなどが加わることもある。
 
○ナスのキャヴィア Caviar d'Aubergines
ナスにオリーヴ油をかけてオーヴンで火を通し、皮をとって身を細かくたたいたもの。ニンニクやハーブで風味をつけ、オリーヴ油で仕上げる。
 
○ウールテートOurteto
香草などをゆがいてからみじん切りにしてのせたオープンサンドイッチ。
 

アンチョビを使ったペーストや料理
アンチョビはイワシの仲間のカタクチイワシの一種で、体長10〜15cm。これを塩漬け、油漬けに加工して料理に使う。作り方は、新鮮なアンチョビを薄い塩水で洗い、次に飽和食塩水に6〜8時間漬け、皮や肉質をしっかりさせて取り扱いやすいようにする。頭、内臓を取り除き、ローリエ、胡椒、クローヴ(丁字)とともに塩漬けにし、熟成させる。これが塩漬けで、これをさらに塩水で洗い、骨と皮を取り、オリーヴ油に漬けたものが油漬けである。
○ビッサラPissalat
アンチョビの稚魚をつぶして塩漬けにし、オリーヴ油でのばしたもの。
 
○アンショワイヤードAnchoyade
アンチョビで作るペースト。アンチョビをニンニクのみじん切りとともに乳鉢に入れ、十分にすりつぶして胡椒をふる。オリーヴ油と少量のワインビネガーを徐々に加え、均質なペースト状にする。パンの薄切りに塗り、オーヴンで焼いて食べる。野菜やゆで卵をたっぷり用意し、アンショワイヤードをつけながら食べてもよい。
○タプナード Tapenade
一種のアンチョビベースト。アンチョビ、黒オリーヴの果肉、ケッパーをつぶしてオリーヴ油でのばす。パンに塗ったり、野菜、ゆで卵に添えたり、サラダのソースとして使う。プロヴァンス語でケッパーを意味する語タプノtapenoから名がついた。19世紀末または20世紀初め、マルセイユにあったレストラン、メゾン・ドレで考案したものという説がある。
 
○パン・バニャPan Bagna
アンチョビのサンドイッチ。握りこぶしよりひとまわり大きなパンを横に切ってオリーヴ油を塗り、アンチョビ、黒オリーヴ、トマトや玉葱の薄切りをはさんだもの。

Remi Heyraud, L'Isle-sur-la-Sorgue
○サルタダニャーノSartadagnano(またはサルタニャーノSartagnano
小麦粉をまぶした小魚を、オリーヴ油をひいたフライパンに1度に入れて、焼き固めたもの。煮立てたワインビネガーをかけて食べる。プロヴァンス語sartan「フライパン」の派生語。
 
○イワシのホウレン草詰めSardines Farcies aux Epinards
イワシは頭と内臓を取り除き、腹を開き骨を取る。ゆがいてから玉葱とともに炒めたホウレン草をイワシの腹に詰め、パン粉をふり、オーヴンで焼く。
 
○イワシとホウレン草のグラタンSardines aux Epinards Gratinnees
ホウレン草をゆでてから適当に刻み、炒めてグラタン皿にしく。イワシは頭と内臓を除き、1枚開きにし、ホウレン草の上に並べる。パン粉をふりかけてオーヴンで焼く。パセリをちらして供する。
 

コート・ダジュール
ニース風ラタトゥイユ Ratatouille Niçoise
ニース発祥、プロヴァンス地方の代表的野菜煮込み。touiller「かきまぜる」の派生語。トマト、ナスなどプロヴァンス地方の野菜をじっくり蒸し煮し、そのまま温製、冷製の一品料理としたり、ソテーやローストした鶏、牛、仔羊料理のつけ合わせとする。作り方は、野菜は全て適当な大きさに切っておく。厚手の鍋でオリーヴ油を熱し、玉葱、ニンニク、ピーマン、ナス、ズッキーニ、トマトなどを次々に炒めていく。十分に混ぜ合わせ、軽く塩、胡椒する。野菜に含まれていた水分で20〜30分煮込み、味を調える。
 
○ピーマンの炒め煮Poivronade
赤や緑のピーマンを主役にしたラタトゥイユの一種。
 
○野菜のベニエBeignets de Legumes
ベニエは小麦粉、卵、水をベースにした衣をつけて揚げるフランス版天ぷら。卵白を泡立てるためふんわりする。多くの場合はビールが入り、衣にアンチョビペーストやニンニク、ハーブも加える。素材は極力薄く切ったナス、ズッキーニ、ズッキーニの花など。

Chez Rene, Nice
○ニース風ティアン Tian Niçois
ティアンはこの地方独特の素焼き容器をさし、それで作る各種野菜のグラタンもティアンと呼ばれる。ニース風はズッキーニ、トマト、ニンニク、ハーブ、ハム、玉葱をご飯と卵でつなぎ、おろしチーズをかけてオーヴンで焼いたライスグラタン。

Jacques Maximin, Vence
○ニース風サラダ Salade Niçoise
大きなサラダボールに、ニンニクの切り口をこすりつけ、トマト、ピーマン、レタス、玉葱、ゆで卵を入れる。オリーヴ油、刻んだバジル、塩、胡椒でソースを作り、野菜をあえ、黒オリーヴ、アンチョビを飾る。本場のニース風サラダでは、全て生の野菜を使い、ソースに酢は使わず、トマトは4つ切りにするという定義がある。が、ゆでたサヤインゲンやジャガイモ、油漬けのマグロを入れたり、ヴィネグレットソースであえることも多い。

La Brasserie du Mirador,
Nice


Remi Heyraud,
L'Isle-sur-la-Sorgue
○スー・ファスムSou-fassum
キャベツを丸ごと使ったニースとその近郊のロールキャベツ。ニース西部グラスでは、キャベツを包むこの料理専用の網を用いていた。